トレンチコートの男 〜“ちっさ!”に込められた、先生の愛情〜

学校に守られている高校生を狙う影 考えごと

※この記事は、昭和の女子高で実際にあったエピソードを、当時の空気感のまま書いています。
今の時代とは少し違う価値観や表現がありますが、先生たちのユーモアと愛情として受け取っていただけたら嬉しいです。

 

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今日は、私が通っていた高校生時代の話を少し。


体育の先生は大柄な女性の先生だった。

いかにも体育の先生、という感じで

声が大きくて堂々としていて、

そしてユーモアがあって面白い。

そんな先生だった。


私が通っていたのは女子高で

自然が豊か……とまではいかないけれど

少し田舎にあった。


大きなグラウンドやテニスコートがあり

周りは建物がぎっしりというわけではなかったので

体育祭のときにはフェンスに “女子高生見たさ” で

男の人が張り付いていたりした。

昭和という時代の風物詩かもしれない。


体育の授業は男性の先生が受け持つこともあり、

今思えば担当分けをしていたのだと思う。

授業が始まると

だいたい5分くらい、

雑談がてら保健の話をしてくれていた。


男性の体育の先生(記憶では、そこそこのおじいちゃん先生)は

男性とのかかわり方を。

女性の体育の先生は

ちょっと変な男性への対応の仕方を。

そんな話をしてくれていた。


その中で一番記憶に残っているのが

「トレンチコートを着た痴漢」の話だ。

春になると気温も温かくなり、

開放的になった “ちょっと変な男性” が

グラウンド周辺に現れるようになった。

部活中、ランニングをする女子高生を狙ってやってくるのだ。


彼はトレンチコートを着ており、

女子高生が向こうから走ってくると

ぱっ、 とコートの前を開ける。


「キャーっ!!」

と避けて逃げるその姿を見るのが

楽しくて仕方がないらしい。


「トレンチコート着ててな……ほんでさぁ……!」

と女子高ならではの噂の爆速な広がりは止まらない。


トレンチコートが出た次の日の体育の授業

トレンチコートが現れたその次の体育の授業は

もう最初から “あの対策” のための雑談から始まった。

いつもどおりの大きな声で先生が言う。


「あいつらはな

自分らより弱い女子高生が

黄色い声出して逃げるのが楽しくてやってるねん。

だから喜ばせたらあかん。

見んでいい。

恥ずかしがったり

キャーキャー言ったらあかん」


先生は腕を組んで、さらに続ける。


「ええかぁ。

トレンチコートを開いた瞬間

低い声で、冷静に

『ちっさ!』って言うんやぞ。

そしたら、あいつらの心はズタズタや。

もうビビって出てこーへんから」


そして先生は、少し笑いながら言う。


「喜ぶのは、あいつらが逃げていったあとでええ。

その場でテンション上がったら、向こうが喜ぶだけやからな」


最後はいつものテンポで締める。


「視界に入ったらでええ。

開いたな、と思ったら『ちっさ!』やぞ。

ほな、今日の授業始めます!」


インターネットがない時代。

そう、今はなきポケベルですらない時代。

情報が自由に得られない時代の女子高の先生方。

すごく試行錯誤してくださっていたなと改めて思う。


その先生とは今も年賀状でつながっている。

今の時代は

生徒に自宅住所を教えることもなくなった。

時代だなぁと感じる。

 

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