「お会計まだですよね?」~法律事務の現場で見た、母の想い~

商業施設のレジ。カゴの中は、子供が使う、リュックや靴、ジャージなど。 元・法律事務員のコラム

昔、法律事務の仕事をしていたころ。
今でも忘れられない出来事がある。

ある日、 衣料品も日用品もそろう
大型のショッピングセンター のレジ前で
店員さんが静かに声をかけた。

「お客さん、お会計まだですよね?」

その言葉を聞いた瞬間
女性はハッとしたように立ち止まった。

手にしていたのは
大きなリュック
ジャージ
靴下
パンツ

すべて、子どもの宿泊学校のためのものだった。

自分のものは一つもない。
嗜好品もない
お菓子も、雑貨も、化粧品もない。

ただただ
子どもが困らないように。
恥ずかしい思いをしないように。

その一心で手に取ったものだった。


宿泊学校の“たった一度きりのリュック”

事情を聞くうちに
その女性の生活が少しずつ見えてきた。

転勤族の夫
小学生の息子
パートを掛け持ちしながら
毎日をなんとか回している。

当時は、今のようにフリマアプリもなく
必要なものは “買うしかない” 時代だった。

宿泊学校で使うあの 大きなリュック
“その一回しか使わない” のに
多くの家庭が買っていた。

その日、ほかのお母さんたちの会話が耳に残ったという。

「うちは新しいリュック買ったよ」
「ジャージも買い替えた」
「靴下も何枚か必要だよね」

本当は、 そんな余裕はなかった。
買う予定もなかった。

でも
「うちの子だけボロボロだったらどうしよう」
「恥ずかしい思いをさせたくない」
その気持ちが
胸の中で静かに膨らんでいった。

 

気づけば、足がショッピングセンターに向いていた

仕事帰り
気づけば 大型のショッピングセンター に足が向いていた。

宿泊学校で必要になりそうなものが 一度にそろう場所。

大きなリュックを手に取ってみる。
しっかりした作りで
周りの子が持っていても違和感のないもの。

でも
値札を見た瞬間
胸がぎゅっと痛んだ。

「やっぱり買えないな…」

そう思って棚に戻そうとした。
戻そうとしたのに
手が離れなかった。

頭の中には
お母さんたちの会話がよみがえる。

「うちだけボロボロだったら…」
「恥ずかしい思いをさせたくない…」

その気持ちが
彼女の心を静かに追い詰めていった。

そして——
気づいたときには
商品を手にしたままレジを通り過ぎていた。

  

留置所で見た、母の姿

彼女はもともと痩せ型の体型だった。
華奢で、どこか頼りなげな雰囲気の女性。

けれど
留置所に入ってからの彼女は
さらに細くなっていった。

面会に行った弁護士に
留置官が心配そうに声をかけたという。

「今日もほとんど食べていません。 心配ですね……」

 

食べ物が喉を通らないほど
彼女は自分を責め続けていた。

取り調べでも
弁護士との接見でも
彼女の口から出てくる言葉はいつも同じだった。

 

「申し訳ございませんでした。
子どもに恥ずかしい思いをさせたくなかったんです。
本当にすみませんでした……」

 

その言葉を
私は弁護士から聞いた。
書類にも、同じ言葉が何度も残されていた。

同じ親として
その様子を “聞いているだけ” でも胸が痛んだ。

“子どものために” という想いが
結果的に子どもを苦しめることになってしまった。
その事実が
彼女を何よりも苦しめていたのだ。

 

あれから年月が経っても、忘れられない理由

私は今、子育てをしている。

あの女性の気持ちが
昔よりずっと理解できるようになった。

「子どものために」
その一心で、 無理をしてしまう気持ち。

誰にも言えない不安を抱えたまま
毎日を回している気持ち。

あのときの彼女は
“特別な誰か” ではなく
どこにでもいるお母さんだった。

だからこそ
今でも忘れられない。

 

子どもの心を支えるには

まず大人の心に少しだけ余白が必要だと感じています。
そのために私が続けている
“自分をメンテナンスするためのアイテム”  をまとめました。

👉自分のメンテナンスで、心に余白がもどってくるアイテムはこちら

子育ての合間に
「耳だけで楽しめる読書」を取り入れてみたい方へ。

👉Audibleの無料体験レビューはこちら

コメント

タイトルとURLをコピーしました