仁王立ち事件 ~暴力より怖い瞬間〜

優しい光が差し込む古い法律書 元・法律事務員のコラム

 

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若くして結婚した彼女。
彼は筋肉隆々の現場仕事。


困ったことがあればすぐに助けてくれて


「頼れる彼」そのものだった。

 

付き合っていた頃は
なんでも言い合えた。


ケンカしても、ちゃんと話せば仲直りできた。

……はずだった。

 

 

物に当たるという“最初の変化”

 

結婚してしばらくすると


彼の機嫌が悪い日は、家の中の物が犠牲になり始めた。

 

コップが飛ぶ
テーブルが揺れる
そしてある日


壁に拳を叩きつけて、見事に穴があいた。

 

その瞬間
彼女の中で何かがスッと冷えた。

昔なら


「ちょっと!何してんの!」


と即ツッコめたはずなのに
その日は声が出なかった。

 

心がビビってしまって

何も言えなくなっていた。

 

彼は言う。

「殴ってないねんから、DVちゃうって」

 

でも


彼女の心はすでに

“殴られた後” みたいに縮こまっていた。

 

まだ子どももいない。
彼女は別れる決断をした。

 

家を出て、別居。
鍵も返した。
住所も教えていない。

 

弁護士に相談したことで
ようやく心が軽くなり
穏やかな生活が戻りつつあった。

 

 

そして迎えた、あの朝

 

その日は、いつもより早く目が覚めた。

薄暗い部屋
静かな空気
彼女はぼんやりと天井を見上げ
ゆっくりと視線を下ろした。

 

その瞬間——
息が止まった。

 

自分のお腹をまたぐようにして、
彼が無言で仁王立ちしていた。

 

足は肩幅に開き


両腕を固く組んだまま


真上から彼女を見下ろしている。

 

殴るでもなく
怒鳴るでもなく
ただ、そこに立っているだけ。

 

なのに
その沈黙が何よりも怖い。

 

寝ている間に気配すら感じなかった。

 
鍵は渡していない。


住所も教えていない。

それなのに 


目を開けたら
屈強な男が自分の体の上に立っている。

 

暴力は振るわれていない。
でも、暴力よりずっと怖い。

 

あの壁に穴をあけた腕を組んだまま
無言で立つその姿は
“威圧”そのものだった。

 

 

暴力の形はひとつじゃない

 

彼は今でも言うかもしれない。

「殴ってないねんから、DVじゃない」

 

でも——

・物を投げる
・壁を殴って穴をあける
・威圧する
・無言で立ちはだかる
・鍵を返していないのに侵入する

 

これらはすべて、
相手を支配するための暴力 だ。

 

殴られた傷は治る。

 
でも

 
“見えない暴力”が残す傷は、
ずっと深い。

 

まとめ

 

暴力は
拳だけで行われるものじゃない。

沈黙も
威圧も
侵入も
立ち方ひとつでさえ
人を支配する力になる。

 

彼女が逃げたのは正しかった。

 
そして

 
「殴られていないから大丈夫」


なんてことは、決してない。

 

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